利用者側になって初めてわかった、訪問看護の高いハードル
胃がんを患った義父の看病のため、地元である福島の訪問看護を利用した訪問看護師 自分自身が利用者になったことで知ることができた、家族の持つ悩みや不安とは
インタビューご協力者
北山 優子
管理者 看護師
ケアチーム大芽
利用者側になって初めてわかった、訪問看護の高いハードル
北山さんが、仕事以上に利用者さん側の気持ちを知ることができた出来事。
北山さんのご主人のお父さん、つまり北山さんのお義父さんが、胃がんを患った際に訪問看護を利用した時のお話です。
福島県の山間部に住んでいたお義父さんは、山できのこを取ったりお花を植えたりと元気に過ごしていたのですが、一昨年に吐血。胃がんが判明しました。手術をした後、一時期はホスピスへ入院をしていたものの、お義父さんの希望は「家に帰りたい」。
山間部にはステーションがなかったので、同じく福島県に暮らすお義兄さんの家で最期を過ごしながら地元の訪問看護を利用することになりました。
しかし、仕事が忙しく時間がなかったお義兄さんに代わり、主な介護は義妹さんが担うことに。お義母さんも認知症を持っていたため、義妹さんはご両親を同時に看なくてはいけない状態でした。
実は、以前にご主人のお母さんのこともご自宅で看取った経験があった義妹さん。当時は今より訪問看護に関する情報が少ない中でのお看取りだったため、今回も在宅での生活支援に非常に不安を感じていました。
そこで北山さんは、義妹さんの手助けをするため、現職から介護休暇をもらって福島に滞在。北山さんの持っている知識をすべて義妹さんに共有し、その中から希望のものを選択してもらって安心してもらおうと思ったからです。
義妹さんは「あの時、お義姉さんがいてくれなかったら、お父さんは入院させてた」「初めて聞くことばかりでとても勉強になった」と、今でも北山さんにとても感謝しているそう。訪問看護師の北山さんが近くにいてくれたことが、義妹さんにとってどれほど心強かったかは、想像に難くないでしょう。
そしてお義父さんの最期。最期は飲まない、食べないといった状況が続いていたため、北山さんも「そろそろかな」と覚悟を固めていました。そこでお義兄さんと義妹さんに、認知症のため有料老人ホームで暮らしていたお義母さんと会わせることを相談。
北山さん以外のご家族は「認知症が進んでいるので、会ってもわからないから…」と会わせることを渋っていました。何よりもお義父さんが、お義母さんと会うと辛くなってしまうこと、そしてお義母さんが「家に帰りたい」と言い出してしまうことを心配していたからです。それでも最後には義妹さんが「やっぱり連れてくる」と言い出し、お義母さんとお義父さんを会わせることに。
お義母さんと久しぶりに再会した瞬間、それまでずっと寝たきりだったのに、ベッドサイドに座って泣き出したというお義父さん。その後はお義母さんとジュースで乾杯し、少し話してからまた横になりました。
その一週間後、お義父さんは亡くなりました。
一方のお義母さんの方は、お義父さんが亡くなった後も「あの人が私を迎えに来ない」と繰り返し言っていました。「お義父さんはもう亡くなりましたよ。お葬式もしたよね?」と言っても理解できていない状態。
そんなお義母さんの状態を見たからこそ、最後の最後に二人を会わせることができたのは、良かったとご家族は感じていると言います。
北山さんは一連のお義父さんのお世話を通じて、利用者だけでなく、そのご家族の悩み、苦しみ、1人で看なければいけない不安感など、訪問看護には様々なハードルがあることを改めて認識したそう。
「情報が少ない」「知識がない」ということが、ご家族にとってどれほど不安なことなのか。医療に関わりのない人のために、もっともっとわかりやすい言葉で、しっかりと理解を得るまで説明をしなければいけない。
自分自身が利用者側になったことで、そういったことを改めて肝に銘じるきっかけになったと振り返ります。
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