看護の選択肢や広い視野の大切さを教えてくれた音楽好きの利用者さん
パーキンソン病を患っていた音楽好きの利用者さん 一見看護行為ではない“音楽機器の配線”によって見えた、広い視野でその人を捉える理想の看護観とは?
インタビューご協力者
後藤大悟さん
正看護師
LIC訪問看護リハビリステーション
パーキンソン病を患っていた独居老人の利用者さん
パーキンソン病を患っていた独居老人の利用者さんがいました。お薬は飲んでいるものの無動の時間が長く、生活はままならない状態。生活保護も受けていてお部屋も散らかっていたそうです。
その方は音楽が大好きで、お部屋に大きなスピーカーを持っていました。在宅がスタートしてお部屋に介護ベッドを入れた際、なんらかの拍子で音楽機器の配線が抜けてしまったのだとか。その結果、大好きな音楽が聴けなくなってしまいました。
するとその利用者さんは、訪問看護師がいくら止めてもお部屋の片付けをするようになったのだとか。きっと、自分で配線して音楽をなんとか聴こうとしていたのでしょう。
しかし片付け中に無動になったり家具にぶつかって転倒したりすることも。打ち身や打撲、発赤といった皮膚トラブルまで起きてしまったそうです。
後藤さんは「この利用者さんは音楽が満足できる環境で聴けないことのストレスがとても大きいんだ」と悟ります。そこで後藤さんは音楽が聴ける状態にしてあげることを提案しました。さまざまなリスクを減らすだけでなく、本人のリラックス効果もきっとあるだろうという見立てでした。
配線は看護の範疇なのか、考え得るリスクは何なのかなど、介入している3人の訪問看護師でカンファを重ねた結果、後藤さんの提案通り音楽機器の配線をすることに。スピーカーから音が鳴った瞬間の、利用者さんの気持ちよさそうな楽しそうな何とも言えない表情が今でも忘れられないそうです。その後、お部屋の片付けもしなくなりました。
配線を行ったことで、コンセントまわりにあった大量のほこりも綺麗に掃除をした後藤さん。そのままにしていたらコンセントから火が出て火事になる可能性もあったため、そうしたトラブルも防ぐことができたそうです。
音楽機器の配線という、一見看護とは関係のない行為でしたが、後藤さんは「看護的な目的があって行った、立派な看護だと胸を張って言える」と振り返ります。それこそ、後藤さんの理想的な看護観でした。
観察と経験に基づき、裏付けと目的がある行動。病気だけでなく人生観や趣味など広い角度からその人にとっての必要性、重要性を捉えた上で行う“広い”看護も良いのではないか。
視野を広く持ち、看護の選択肢を持つ大切さをその利用者さんから学んだ後藤さんでした。
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