「もう苦しいことはやめて」 姉妹のわだかまりを解いた訪問看護師
感謝と心苦しさが入り混じり、複雑な関係になっていた一つ屋根の下に暮らす姉妹 「静かに逝かせて」という希望通りのお看取りを叶えた、訪問看護師の繊細な働きかけとは
インタビューご協力者
早間 宏美
管理者看護師
訪問看護ステーションわかば
「もう苦しいことはやめて」 姉妹のわだかまりを解いた訪問看護師
早間さんが今でも記憶に残っている、とある姉妹がいます。
利用者さんは、末期の乳がん。転移したがんが鎖骨を陥没させるまでになっていたまだ60代前半の妹さんでした。
二世帯住宅の1階に独身の妹さんが、2階にはお姉さんがご家族と住んでいました。
早間さんは妹さんの退院後、終末期からこの姉妹と関わることに。
姉妹とは言え、お互い境遇が違い中で一つ屋根の下で暮らしていたことや、それまでの通院でお姉さんが送迎していたことなど、さまざまな要因からお互いがお互いに気を遣い、複雑な関係になっていたそう。
お姉さんとしては可能な限り妹に治療を頑張って欲しいと願い、一方で妹さんご本人としては治療が辛いからもう家に帰りたいけれども、家にいることでお姉さんに迷惑をかけたくないというジレンマに苦しんでいました。
入退院を繰り返す中で、家庭を持つお姉さんがサポートしてくれるのは、嬉しいけれども申し訳ない。
当初は自分でやっていた鎖骨にたまった膿のケアも、体が動けなくなるにつれてお姉さんがやってくれるようになって有難いけれども、やっぱり気が咎める。
病気による長年の感謝と心苦しさの板挟みの中で、姉妹の間には他人には決してわからない確執が生まれてしまっていました。
そんな中で最終的に決まった妹さんの退院。姉妹双方の考えや状況が複雑だったこともあり、当初は訪問看護自体もあまり肯定的に受け止められてはもらえなかったそうです。
そんな空気を察し、早間さんは看護を押し付けるのではなく、ゆっくりと姉妹のタイミングを待つ関わり方をすることに。
そんな早間さんの様子を見て、妹さんもお姉さんも徐々に訪問看護を受け入れてくれるようになりました。「毎日来てください」とまで言われるようになった早間さんの存在によって、姉妹の間にあるわだかまりもほどけていきました。
ほどなくして妹さんの病気も進行していき、次第にやせ細り、声も出せなくなりました。すると妹さんから早間さんやご家族に向けた一通の手紙が渡されました。
「もう苦しいことはやめてください。静かに逝きたいです。」
ない力を振り絞って書いたであろうその命の手紙を読んだ時、早間さんは強く胸を打たれ、涙したと振り返ります。そしてお姉さんも「妹に治療を頑張ってもらいたいのは、単なる私のワガママだと気付きました」と我に返ったそうです。
その後は、妹さんの望むお看取りに向けて、お姉さんとも密に連絡を取り合いながらすすめていきました。
最期は本当に静かに息を引き取った妹さん。
生前の妹さんからも、エンゼルケアの際にはお姉さんからも感謝をされた、良いお看取りになったそうです。
最後の最後に姉妹が心を通わせ、お互いに言いたいことが言えてお互いのためを思う行動をできたことに早間さんは心の底から安堵しました。
ご本人と家族、双方が納得した形でないと良いお看取りとは言えません。そのために看護師はどのように相手の気持ちを汲んで、どのように動いていくべきなのか。
訪問看護は、当事者しかわからない間柄を持つ「家族」という密な関係の中に入っていく仕事。だからこそ、時間をかけてちょっとした言葉や繊細な希望を引き出すことがいかに大切なのかを、考えさせられたかかわりとなりました。
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