利用者に寄り添う看護を~安心して働ける環境づくり~かなで訪問看護ステーション 佐々木さんへインタビュー

公開日:2025/06/11 更新日:2025/06/11
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看護師免許を取得後、病院でさまざまな科で経験を積まれた佐々木様。訪問看護の道に進まれたきっかけや管理者として大切にしていることを伺いました。

看護師を志したのは患者さんの「ありがとう」の言葉。在宅分野へ進んだきっかけとは

私が看護師になった背景には、父親の存在もありました。父はがんを44歳で患い、44歳の若さで私が高校生くらいのときに亡くなりました。自宅で最期を看取ったのですが、そのときに往診でお世話になった先生方や看護師たちに「うちの病院で働いてみないか」と声をかけてもらったんです。

もともと中学生の頃は、ぼんやりと保育士や獣医になりたいと考えていました。学校の職場体験の授業で保育士さんに話を聞きに行ったときに、病院の看護師の仕事を体験できるツアーを組んでいる病院があるのを教えてもらって、行ってみたんです。

そこで患者さんの足を洗わせてもらって「ありがとう」と言ってもらえたことがすごくうれしかったんです。そのときに看護師になろうと思うようになりました。

その後はまず准看護師の資格をとり、看護高等専門学校で勉強し、21歳で大学病院に就職しました。在職中に結婚し、すぐに妊娠したのですが、そのとき先輩に「大学病院で子育てするのはちょっと向かない」と言われたこともあり、1年間は育児に専念しました。

ただ、育児をしながらも仕事のことを考えてしまって、周りから置いて行かれる感じがしてつらくもありました。

子どもが1歳を迎えたときに、父の闘病でお世話になった病院に就職し、内科や呼吸器、急性期病棟や救急病棟で経験を積みました。

その病院では「在宅医療室」があって、300件ほどの往診をしていました。救急車で運ばれてくる方のほとんどは在宅の患者さんという現状もあり「救急の病棟で働くなら、在宅で生活する人が見えてこないと受け入れられない」と当時の救急病棟の師長さんに言われたことがきっかけで、在宅と病棟を兼務して働くことになりました。

13年ほど勤めたころに、病院併設の訪問看護ステーションに行かないかと声をかけられて異動になったんです。スタッフの一員として異動しましたが、半年ほどで管理者を任されることになりました。訪問看護の楽しさや大変さを知る前に管理者になったので、少なからず不安はありましたね。

「患者さんに『ありがとう』と言ってもらえたことがすごくうれしかった」とお話しされる佐々木さん

信頼できる医師との出会い。かなで訪問看護ステーション設立のきっかけ

以前の訪問看護ステーションに勤務していた間も、法人内で異動がありました。そのなかで、信頼できる医師との出会いは私にとって大きな転機でしたね。その先生が訪問診療を開業して直接お仕事もらうようになり、先生の患者さんを受けるのが楽しかったです。

その先生の患者さんで印象的に残っているのは、奥さんと2人暮らしのがん末期の男性です。病気の進行とともに少しずつ動けなくなって、医療用麻薬の投与も始まっていたけど「車(自家用車)を運転したい」というご希望があったんです。

もちろん自転車に乗れるような状態ではなかったのですが、まずはひとりで運転できるものとして自転車があり乗ってみたところ、こけてしまったんです。よく話を聞いてみると「自分で運転するものに乗りたい」という想いがあって……その話を聞いて、そのとき一緒に担当していたケアマネジャーさんが電動車いすを用意してくれました。利用者さんは一生懸命、運転の練習をされてましたね。

なぜそこまでして外出したいのか聞くと「みんなを回転寿司に連れて行きたかった」と話されたんです。その言葉を聞いて、自宅での生活をサポートするのは、利用者さんの想いに寄り添うことだなと改めて思いましたね。結局一緒にお寿司は食べに行けませんでしたが、奥様からは「やりたいことができてよかった」と言っていただけたのでよかったです。

幾度となく印象に残る利用者さんが増えていくうちに、一緒に仕事をさせて頂きたいという願望が強くなり、意を決して先生のところで働かせていただけないかとお願いしました。すると先生から「訪問看護を開設しましょう」と言われて、2020年4月に当ステーションの開設の運びになりました。ステーション自体は現在5年目、私の訪問看護の経験は15年目ほどになります。

「ただそばにいること、寄り添うこと」を大切に。お子さんの利用者さんのエピソードを通して

当ステーションではお子さんの利用者さんもいます。人工呼吸器も使用している子がいるのですが、介入当初、その子のお母さんが両方のご両親から心無い言葉を当てられてしまって…つらいししんどいですよね。

私たちお「一緒に育てていこう」と思ってみていた子が今年で10年になるんですよ。何年か前に、病院受診の同行でおばあちゃんにお会いしたことがあります。そのときに「あなたたちが来てくれなかったらどうなっていたかわからない」というようなことを言われたんですよ。その言葉から、そばにいること、寄り添うことって大事だなと実感しました。

訪問看護って、ケアができたりそばにいたりできることはあっても「なんとかしてあげたい」というのはおこがましいのではないかと思っています。

私たちは無力なんですけど、やっぱりそばにいること、寄り添うことを大事にしたくて……ご家族やスタッフを巻き込んで、一緒に子どもの成長をお祝いしたりクリスマスパーティーをしたりしています。病気によっては来年はどうなっているかわからないこともあるので、お子さんの場合は、1年1年の重さがちがいますよね。

なので、お祝いごとは全力で取り組みます。家族で障害を持ったお子さんを育てていくのはすごく大変だと思いますが、そのなかでご家族が互いに支えあえる存在だと実感する経験は大きいと思っています。

スタッフへの教育にも注力 自身も学び続ける姿勢で

私は肺理学療法を学んだ経験があるので、実践を交えながらスタッフに方法を伝えています。リハビリスタッフと一緒に呼吸リハビリテーションを行ってます。

呼吸リハビリテーションは在宅においても重要で、たとえば利用者さんのお風呂対応の場合です。

「お風呂に入りたい」という強いご希望があったときに、呼吸リハビリテーションの手技があるおかげで、必要に応じて排痰ケアや呼吸のマッサージをしながら実施しています。「今日もお風呂に入れたよ」と言ってもらえることが何よりうれしいです。

呼吸器疾患を抱える利用者さんは見た目に苦しいかどうか判断しにくいこともあるし、苦しさは介護度に反映しないところでもあります。なので「呼吸が早い・遅い」「呼吸の音がおかしい」「呼吸がいつもとちがう」などに気づいたら、SOSのサインだと思うようにとスタッフとも共有できるよう努めています。

日々進化する医療の技術や知識はこれからも勉強し続けないといけないと思っています。新しいことや未経験のことにはちょっとわくわくもしますし、専門の知識を持っている人に教えてもらうことは更なるスキルアップに繋がりますよね。

談笑する「かなで訪問看護ステーション」のスタッフの皆様

管理者としての姿勢 スタッフにも細かな配慮を

スタッフのなかには、利用者さんに「なんでもやってあげたい」と思ってしまう人もいるんですよね。私はそのときに「いつ誰が何に困っていて、それをやってあげたいと思ったの」と聞きます。

たとえば、すごく不衛生なお宅への訪問があったときに、大体のスタッフは「綺麗にしないといけない」と言います。けれども、そこで困っているのはスタッフであって、利用者さんではなく、私たちが利用者さんの家を綺麗に掃除するのはただの自己満足になってしまうんですよね。

自宅は利用者さんのものだし、たまにうかがう私たちが無理やり掃除する必要はないんです。もちろん、命を守るために譲れないこともあると思いますが、利用者さんの困っていることをお手伝いしないと、訪問を拒否されることにもつながってしまい、本来の目的を見失ってしまうんですよね。

スタッフとは、利用者さんに「寄り添う」のは簡単ではなく、私たちは無力だということも共有したいですし、訪問看護はとても怖い仕事だということを忘れないでほしいと思っています。

訪問先で自分で判断しなくてはいけない場面があるので、判断できなかったら必ず確認の電話をもらうようにしています。各スタッフが大体どこの訪問先にいるのかわかるので、私からも戻ってくるのが大幅に遅いなと思えば何か苦戦しているのかもしれないと推測できるので、連絡入れて確認するようにしています。

利用者さんによっては対応の難しい方もいるので、事業所としてスタッフを守るという意味で、スタッフに自信がつくまでは2人対応にしたり、オンコール対応は自立するまで時間をかけたりしています。

看護技術のチェックリストも作っていて、できたこと・できていないことを挙げて、できていないことを事業所内の勉強会で取り上げています。その手技ができるようになるまでは先輩スタッフが同行するようにしていますよ。スタッフの手をすぐ離さないように心がけて、安心して訪問に行ってもらえるように努めています。

当ステーションではお看取りの件数が多く、医療依存度も高い利用者さんが多いです。精神的な負担を抱えるスタッフがいることを踏まえ、当ステーションではお看取りのあと、大半のご家庭にお悔やみに伺っています。

ご遺族から「あなたが来てくれたから最期までおうちで過ごせた」という言葉を返してもらうのがスタッフにとっても1番いいのかなと。スタッフ同士でも「よく頑張ったよ」「大変だったよね」と話したりして、スタッフの気持ちも受け止めながら、寄り添うことを意識しています。

今後の展望 質の高い看護を次の世代へつなげるために

これまで管理者として働かせてもらっていますが、自分が管理者を続けているうちは、後が育たないのではないかと考えています。さいたま市のなかで訪問看護ステーションは830件以上ありますが、何かの分野に特化させるというのは少ないのが現状です。

規模を大きくすれば安定感もあるのかもしれませんが、現状ではどのステーションも同じくらいのスタッフの人数と年齢で踏ん張っています。当ステーションにはさまざまな利用者さんがいるので、何かの分野に特化させないのもひとつの特徴かなと思うこともあります。

看取りの件数が多いので、看取りに特化していると思われがちですが、法人の特性上そのような利用者さんが集まりやすいだけなんです。ただ、提供できる技術は高いと思っているので、どんな人でも受け入れることはできるという自負はあります。

訪問看護ステーションの顔は管理者だとよく言われますが、私は裏方でいいんです。スタッフが困ったときだけ表に出て、看護を提供してもらう役割はスタッフで、自分たちの看護を輝かしてもらいたいと思っています。ステーション自体の規模を大きくしなくても、細々と育てて次の世代に渡していけたら大切にしてきたことは続いていくのかなと思っています。

1件1件ぶれずに今の看護を続けて、将来的には学生さんを受け入れたり、育てていけるような体制ができたらと考えています。

インタビュアーより

ステーションの理念や管理者の佐々木さんの想いが伝わり、スタッフ全員が同じ方向を向いているのがわかりました。お誕生日やクリスマスなどのイベントを通じて利用者様との距離を近づける姿が印象的でした。和やかな雰囲気がとても素敵なステーション様です!

事業所概要

かなで訪問看護ステーション(埼玉県さいたま市)

住所:埼玉県さいたま市西区大字高木1366番地1

運営方針・理念:

「寄り添う看護」を合言葉に、常に相手の立場に立って行動します。

事業所紹介ページ:https://ns-pace-career.com/facilities/14434

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記事投稿者プロフィール画像 NsPace Careerナビ 編集部

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