死を目前にした患者さんに、「寄り添う」ことの難しさ
訪問看護のベテラン看護師が出会ったとあるALSの在宅医療の利用者。患者さん、ご家族との触れ合いの中で学んだ「寄り添う」ことの難しさと、向き合っていくための「覚悟」とは?
インタビューご協力者
中村 敦子
管理者 / 看護師
へいあん訪問看護藤沢
「看護師になって良かったな」と感じる瞬間
神奈川県藤沢エリアにある「へいあん訪問看護藤沢」で働く中村さんは、ALS患者さんを3年間担当されていました。50代女性の患者さんの主介護をされていたのは、その三男の方。
しかし、そのお子さんは統合失調症のある方でした。
大きなスプーンを使って、お母さんが窒息しそうになりながらご飯を食べさせてしまったり、お母さんが失禁してビショビショになって椅子から崩れ落ちそうになっていても、本人がその気にならないと対応をされなかったりと、一人で介護を行うことが難しく、中村さんが訪問看護を行うこととなりました。
仕事が忙しいなどの理由から、ご主人や他のお子様方はあまり介護には積極的ではなく、患者さんご本人は、ご家族のそういった事情もわかっていたので、呼吸器や胃ろうをつけるという選択をしませんでした「誰も面倒をみれないでしょ?」というお気持ちだったのだろうと中村さんは振り返ります。
「ご本人の意思と、ご家族の価値観を最大限尊重できるようケアのあり方を考えさせられました」と、中村さん。保健所の方や弁護士さんと相談をしながら、「寄り添う」という言葉について考えたそうです。
「“寄り添う”とは看護師の方々がよく口にする言葉です。しかし、寄り添うことは簡単ではなく、本当の意味で寄り添うためには、自分の中にも確固たる覚悟が必要なんだ」と、患者さんに向き合うなかで学んでいったといいます。
この利用者さんのケースでは、最初は外部の方がご自宅にあがることにも頑なに拒絶されていたのだそうです。そこで中村さんは、患者さんの望みを叶える努力をすることで距離を縮めていきました。
「例えば、肺ガンの患者さんが“カラオケに行きたい”と言ったとします。病状を鑑みて、無理だと思っても、なんとか行きたいといった気持ちを叶えるために準備をするんです。すると、患者さんは「自分の主張を受け入れてくれている」と感じるんです」。実現することが難しくとも、最大限叶えるための努力をする。そうすることで「あなたの味方なんだよ」という思いを伝える。それこそが、患者さんの心に寄り添うための第一歩なのだといいます。
「本当に大事なのは、当たり前のことをやるということなんです。患者さんの希望にまずは寄り添う努力をすること、大事な話をする時は、顔を向けてしっかりと目を見て話をすることそういったことが患者さんの心のケアにつながります」。
過去にがんセンターという人の「死」が身近にある場所で働いていた中村さんは、「本当に患者さんと向き合えているのかな?」と自問自答を繰り返していました。患者さんに袖を掴まれ、話を聞いて欲しいと言われたにもかかわらず別の患者さんからのナースコールが鳴ってしまったため、部屋を退出しなければならない。そんな経験を通じて、忙しい病棟で働くことへの疑問が膨れ上がっていきました。
一方で訪問看護は、利用者さんと濃密に関われる環境。どちらが良い、悪いということではなく、利用者さんの様子を五感で感じとることができる距離感こそが自分の大事にしたいことだったと気付いたそうです。「在宅には、看護師じゃなきゃできないことがたくさんありますし、それは病院ではできなかったなってことでもあるんですね。看護が好きで、人が好きな人なら在宅は絶対に好きだと思うし、「看護師になって良かったな」と感じる瞬間を得られると思います」。
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