「もっとできたはず」の後悔が導いた看護観
自らが選択したケアの数日後に亡くなった利用者さんに後悔の念を抱いた看護師。その後の看護観や仕事の方向性を決定づけた、ご家族からの感謝の言葉とは
インタビューご協力者
小暮 和歌子
管理者、看護師、訪問看護認定看護師、介護支援専門員、認知症ケア専門士
ふれあい訪問看護ステーション
「もっとできたはず」の後悔が導いた看護観
小暮さんが訪問看護師になったばかりの頃のお話。当時は今ほど在宅医療の環境が整っていなかった時代でした。
小暮さんは心不全の末期の方を看ていました。
いつもは訪問時に入浴をおこなっていたのですが、その日は「今日は動くと苦しいから、お風呂はいいよ」と言われた小暮さん。
今日のケアについて何をしようかと悩んでいた時、その利用者さんの手足が冷たいことに気付きました。小暮さんは、1時間ずっと温かいタオルで手足を温め、マッサージをすることに。そして「また来週来ますね」と伝えて退室した数日後、その方は亡くなりました。
まだ経験も少なかった小暮さんはショックを受け、「もっと早く先生に繋げばよかった。もっとできたことがあったのではないか」ととても後悔しました。
その後、お線香をあげに自宅へ伺った小暮さん。ご家族から「大好きなお風呂には入れなかったけど、手足を温めてもらってすごく気持ち良くて良かったって言ってたのよ」と感謝の言葉をもらいました。
自分のケアの直後に利用者さんが亡くなるというショックに「こんなに辛い思いはもうしたくない」と思いかけましたが、その家族の言葉に心から救われたそうです。
小暮さんは決してミスや失敗をしたわけではなく、その時にやるべきケアを精一杯やりました。
しかしこの一件は「もっと勉強してこの仕事を頑張りたい」と再認識し、自分自身の看護観を見直すきっかけになりました。
看護師は思い入れが強い人ほど、完璧なケアをしようと思い詰めてしまうことがあります。
しかし、現場でできることが限られているのが訪問看護。完璧を追い求めると理想と現実の乖離で、自分自身が潰れてしまうことも少なくありません。
医学的な正解だけでなく、利用者さんご本人やご家族が望むことをどのようにくみ取り、選択するサポートをしていくか。利用者さんやご家族と信頼関係を築いていくことや利用者さんのそばにいることなど、それだけでもケアになることがあります。
何かをやらなければいけないのではなく、何ができるかという視野を持つことの必要性を、小暮さんは強く実感したそうです。
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